はじめに

 日本海に面する地域を巡る状況は大きく変化しています。

 東アジア、特に中国沿岸部や韓国等の経済成長に伴い、日本海を通る国際物流ルートが形成されつつあります。また、国内では交流型の国土が形成されつつあり、日本海における物流を巡る条件は大きく向上してきています。対岸のアジア地域との交流も徐々にその量を拡大させています。さらに、ゆとりや癒しが尊重される時代に入り、日本海地域の持っている生活文化、自然、空間が大きな価値として見直されつつあります。日本海側は、これまでのエネルギー供給などの面で太平洋側を支える一方、経済や国際交流を太平洋側に依存していた地域でした。今、こうした状況が少しずつ変化を見せ始め、この地域が、東アジアを始めとする世界と直接結びつき、特色ある歴史や文化を活かしつつ、自立した活力ある地域(日本海国土軸)へと、着実に大きく飛躍する可能性を見せ始めています。

 運輸省第一港湾建設局は、これまで秋田、山形、新潟、富山、長野、石川、福井の7県で港湾、空港そして海岸の整備を通じてこれらの地域づくりに貢献してきました。今回の行政改革で2001年1月からは、国土交通省北陸地方整備局、東北地方整備局として新たなスタートを切ります。今後は、北陸、東北の各ブロックにおいて、道路、河川、都市等の部局との連携を一層密にしつつ、港湾、空港、海岸づくりを行っていくこととなります。そして、最も重要な業務として、日本海側の各地域が、国際的な経済、文化の交流が飛躍的に活発となる可能性が大きい日本海を生かして地域づくりを行っていくこと、そのために連携した取り組みを行っていくことを積極的に支援していきます。

 こうした業務を進めるには長期的な展望、指針が不可欠です。このため、秋田県から福井県までの「日本海地域」が、日本海を舞台として繰り広げられる世界各地域との交流を通して発展する姿や、その実現に向けた施策の方向をビジョンとしてとりまとめました。施策の方向としては、港湾や空港の持つ様々な機能を勘案し、ゲートウェイ機能の充実、市民のための臨海部の形成、沿岸域や海洋の環境保全といった柱立てでまとめました。もちろん日本海地域は秋田県から福井県までの当局管内の県だけで構成されるものではありませんが、その主要な地域であることは間違いないと思われますので、「日本海地域」をタイトルに掲げさせていただきました。

 本ビジョンの策定にあたっては、地方自治体や港湾関係者からのヒアリングを行うとともに、様々な分野の有識者からなる懇談会を設け、日本海地域の課題、将来像、実現方策等について議論していただき、最終的に当局でとりまとめを行いました。その際、世界や我が国における日本海地域の位置づけをはっきりと示すこと、日本海の特色を活かした施策や連携・協力のための取り組みを示すこと、簡潔な構成や平易な表現を用いて一般の方々にも分かりやすく示すこと、といった点に心がけました。

 本ビジョンは、東アジアと我が国との国際分業のさらなる深化や東アジアを中心として形成される国際貿易ルートの活用により、物流や生産コストの削減等を通じて日本海地域が発展することを大きな柱の一つとして想定しています。これは中長期を見通した一つの展望であり、不確実な要素を多く含みます。しかしながら、大競争時代やグローバル化の進展の中、地域の発展については、世界の大きな動きを見据えながら考えることが必要であり、できるだけ大胆な仮定を置いたビジョンとしました。したがって、実際の施策の立案・実施に際しては、東アジアの成長等の動向を見定め、適切な評価を行いつつ進めることが必要です。

 本ビジョンは、第一港湾建設局と21世紀に新たに発足する北陸、東北の地方整備局との間の橋渡しの役割を持っています。新たな組織は、このビジョンの実現に向けて、必要に応じてアクションプログラムを作成しつつ着実に努力を重ねていくことと思います。とはいえ、このビジョンが実現に向かうためには、実態経済の動きが主であり、公的な機関はあくまでもこれを支えていくに過ぎません。したがって、本ビジョンには、国の関係部局だけでなく、地方自治体、民間企業、さらには市民一人一人の参加が得られなければ実現しないような取り組みまで示しています。施策の実現に当たっては、国と地方、官と民の適切な役割分担が必要です。

 一人でも多くの方に本ビジョンをご覧になって頂きたいと思います。その上で、日本海地域の将来についてお考えいただき、また、ご意見をいただければ幸いです。本ビジョンを契機として、大きな可能性を有する日本海を活かした地域づくりについての議論がますます活発になり、実現に向かうことを期待しております。また、私どもも努力いたします。

2000年12月
運輸省第一港湾建設局長
西島浩之