目標1:ゲートウェイ機能の充実

目標1:世界を日本各地とのネットワークを形成するゲートウェイ機能の充実

1.日本海地域の港湾を巡る状況:東アジアとの貿易の大幅な増加

 日本海地域の港湾では、長らく工業原材料やエネルギーなどの貨物を不定期に取り扱うことが主流であり、コンテナなど定期的な貨物の多くは、トラック輸送等を通じて太平洋側の港から輸出入されてきました。

 こうした状況は、ここ10年程の間に大きな転換を遂げつつあります。冷戦終了後、東アジア、特に市場開放を契機とした中国の経済成長により、我が国の国際分業がさらに進行しています。こうした背景の中、日本海地域の港湾から輸出入されるコンテナ貨物の量が、韓国方面を中心に飛躍的に伸び、特に近年では中国方面が著しく伸びています。また同時に、東北や中部を横断する高速道路の整備の進展等により、太平洋側の地域も背後圏とした、北海道等と当地域を結ぶ国内海上フェリー輸送も増加しています。

 当地域の地場産業は、東アジアにおいて半製品を低コストで生産して輸入し、国内で高付加価値の完成品を生産するなど、国際分業を図ることにより海外との競争に対応してきました。輸出入を太平洋側に依存している状況では、当地域は割高な輸送コストを負担せざるを得ず、ひいては我が国の高コスト構造の要因にもなってきましたが、こうした状況は徐々に改善されつつあります。

 エネルギー等の生活必需物資を大量に安く地域社会に供給するといった港の従来の役割は引き続き重要ですが、国際分業が進展する中、製品・半製品を効率的に輸送するコンテナ物流面の条件の向上は、地域産業のさらなる物流コストの削減や円滑な分業生産体制の構築に寄与するものと思われます。

2.日本海地域におけるゲートウェイ機能の将来像

国際物流拠点としての港湾の第一段階

  現在、中国、韓国等の飛躍的な成長に伴い、これら東アジアと北米、欧州、東南アジアを結ぶ国際コンテナ航路が増大しています。東アジアと東南アジアを結ぶ航路は、日本海を積極的に利用しています。北米と結ぶ航路では、日本に寄港する場合は太平洋側を通っていますが、日本に寄港しない場合には、時間の短縮を図るため、釜山から日本海を通って、直接、北米に向かう航路も登場してきました。中国、韓国等では大水深でかつ情報化された港湾が建設されており、東アジアのさらなる成長や国際競争の激化に伴い、将来、大型コンテナ船が日本海を頻繁に通るようになれば、日本海側は国際物流の大動脈に位置することになります。

 また、東アジアの成長により、我が国の国際分業はこれら地域を中心としてますます深化していきます。日本海地域に立地する製造業とこれら地域との国際分業を通じた関係はますます強まり、日本海地域の港湾から輸出入される製品・半製品ベースの貨物がより増加していくものと思われます。

 さらに、現在進みつつある本州の横断方向に加え、縦断方向の高速道路網の整備が進めば、国内の陸上輸送ルートが飛躍的に多様化するとともに、地域内においても特定の港湾に貨物を集約しやすくなります。

 このような条件が整ってくれば、日本海地域の荷主が、アジア向けの貨物について、国内輸送コストが安く、また、海上輸送時間も短い日本海地域の港湾を選択する傾向が飛躍的に高まります。これにより、各地域における港湾からアジアへの航路がますます充実します。さらに、日本海を頻繁に通る、東アジアと北米等を結ぶコンテナ船についても、船会社同士の競争の高まりとも相まって、日本海地域の一部の港湾に寄港する可能性も考えられます。

 日本海地域の港湾の利便性の向上は、物流コストの削減等を通じて、当地域に立地する企業の国際競争力を高めるとともに、物流に関連した新たな産業の立地にもつながります。これにより、域内での輸出入貨物の増加、それに伴う就航便数の増加、さらなる港湾の利便性の向上といった流れが形成されることも考えられます。

 したがって、日本海地域の港湾の将来像については、その第一段階として、

「日本海地域で生産・消費されるアジア方面の貨物を、京浜地区、阪神地区等に頼らず、日本海地域から輸出入する港湾となる。なお、一部の港湾に北米等との航路が就航する可能性もある。」

ことを想定します。

国際物流拠点としての港湾の第二段階

 さらに中長期を展望すればどのような将来像が描けるでしょうか?

 日本海を通る国際物流ルートの増大や、東アジアの成長と我が国との国際分業の深化など、日本海地域を巡る物流環境のさらなる向上により、輸出入に係る企業の立地環境も大幅に向上します。また、北米等への基幹航路が就航し始めることが呼び水となり、日本海地域の国際物流拠点としての可能性が大きく注目され、当地域にこうした基幹航路の集積が本格化してくることが考えられます。こうしたアジア方面への航路の充実や北米等への基幹航路の増加により、さらなるコスト削減効果を狙って、より広域的な地域の荷主が日本海地域の港湾を選択する可能性が大きく開けてきます。

 さらに、東アジアに加えて、当地域が対面する北東アジアの成長や資源開発等の進展も当地域に大きな影響を及ぼすものと思われます。これにより、朝鮮半島の東岸との航路やロシア沿海州(ピョートル大帝湾)との航路など、新たな航路が形成されてくることも予想されます。

 こうしたことから、日本海地域は、東アジアと北米を結ぶ大動脈の一つの拠点となり、また、対岸との物流も飛躍的に伸び、「日本海・アジア大交流軸」とも呼びうる航路網が形成される可能性もでてきます。

 したがって、日本海地域の港湾の将来像については、その第二段階として、

「日本海地域で生産・消費される貨物に加え、東北地域、北関東地域、中部地域、近畿地域等の太平洋側の貨物をアジア、さらには北米等に輸出入する港湾に成長する」

ことを想定します。

国内物流拠点としての港湾の将来像

  より高速な船が開発され、実用化されるにつれ、日本海側が弓なりに内側にしなっていて輸送距離が短いという有利性がますます発揮され、当地域や三大都市圏も含めたエリアと北海道、九州を結ぶ複合一貫輸送のルートはますます充実するものと思われます。また、こうした流れは、環境負荷の少ない船舶の利用を促進するモーダルシフト政策とも相まって、さらに加速するものと思われます。

国際・地域間交流拠点としての空港の将来像

  21世紀は、日本の各地域が、東京圏、大阪圏などを経由しないで直接世界の地域と結ばれる時代です。東アジアとの国際分業や国際交流の進展により、我が国を含む東アジア地域全体において都市間を結ぶ多重多層的な航空ネットワークが形成されていきます。日本海地域においても、こうした航空需要に応じ、地域の国際化が進み、域内の各空港は東アジアの主要な各都市とのネットワークを有する空港となります。また、幾つかの空港については北米、欧州等との長距離ネットワークを有する空港となります。さらに、南北に細長く広がっている日本列島において各地域と交流するためには航空路は今後とも重要であり、各空港は国内の地域間交流を支える機能を引き続き有します。

3.将来像実現に向けての主要施策

 こうした将来像の実現に向けて、日本海地域の各地域が東アジア等との国際分業の進展や国際貿易構造の変化の中で協調しつつ競争する条件を整備する観点から、世界と日本各地を結ぶ国際物流・交流ネットワークの形成を図ります。そのため、外港展開や港湾間の機能分担により物流機能を集約しつつ、国際ネットワークの拠点となる港や空港の機能の充実や、国際的な水準の効率的なサービスの確保等を行っていきます。

 その際、従来、工業原材料やエネルギーなど不定期な貨物を中心として取り扱っていた港を、定期的なコンテナ貨物にも対応した港にするためには、コンテナに対応した岸壁、小口・多品種のコンテナ貨物を荷さばきする倉庫等の流通施設、定時制の確保に資するための防波堤等の整備等が重要です。管内の各港は、流通施設が集積して立地される空間(流通団地)を有していません。空間確保が、最も重要な課題です。さらに、ソフト面での対応として、官民の適切な連携の下、情報化によるサービスの向上、港の管理・運営主体の育成・強化等が重要です。

(1)コンテナに対応する高規格な港の機能の充実

 東アジア等との国際分業や国際貿易構造の変化に対応しつつ、世界各地との物流のネットワークの拠点となる港の機能の充実を図ります。そのため、東アジア等における生産基地との製品・半製品ベースの輸出入の拡大等に対応しつつ、高規格な国際海上コンテナターミナルや、コンテナやそれ以外のバルク貨物(原木、石炭等)も取り扱える多目的国際ターミナルの整備を行います。

 こうした取り組みの一環として、日本海地域の主要な港湾において、増大する輸出入コンテナに対応した高規格なターミナルの整備を構想します。

(2)港と高速道路等との連結性の強化

 近年、太平洋岸と日本海岸を結ぶ高速道路が順次整備されてきましたが、高速道路と臨海部を結ぶアクセスが円滑でない場合があります。そのため、輸出入コンテナ貨物の流通の円滑化や、国内の長距離輸送における海上輸送の利用を促進するための取り組みを行います。

  1. 国際海上コンテナのネットワーク拠点と高速道路や鉄道ネットワークとの連絡を向上させます。特に、高規格幹線道路等と港湾を結ぶ高規格な臨港道路の整備に努めます。
  2. 複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルを整備します。

こうした取り組みの一環として、臨海部を貫通する大規模な臨港道路の整備を構想します。特に、新潟地区においては東港、新潟空港、西港を貫通する高規格な道路の整備、伏木富山地区においては伏木地区、新湊地区、富山地区を結ぶ高規格な道路、金沢地区においては港の両岸の地域を結び、能登有料道路へ向かう高規格な道路の整備を構想します。

(3)(港のロジスティクス(物流管理)機能の充実

   海上輸送と陸上輸送の結節点である港において円滑に貨物を流通させるため、物流管理機能を充実します。

  1. 世界へのゲートウェイ機能を果たすために必要な海-陸、陸-陸など多様な物流ニーズに対応できる倉庫、流通施設を港湾地帯に集積させます。特に、製品・半製品を中心とした輸入貨物に対応し、小口・多品種のコンテナ貨物を迅速・効率的に流通させるため、総合輸入ターミナル等の整備を進めます。また、こうした流通施設が容易に立地できる空間を新たな埋立、再開発、それらの組み合わせ等により確保、整備します。
  2. 国際的な水準を目指しつつ、入出港手続き等の電子情報交換(EDI)化や税関・通関手続きの情報システム(SeaNACCS)との統合を推進するとともに、電子商取引の進展と併せて、輸出入手続きと商取引の一体化についても検討するなど、IT(情報技術)を積極的に活用します。
  3. 輸出する企業と輸入する企業のそれぞれのニーズに応じた貨物の受け渡しができるよう、港の運営の効率化を図るとともに、港湾利用者のニーズに対応し、荷役の効率化、十分な稼働時間の確保、税関・出入国管理・検疫(CIQ)機能の充実等により物流サービス向上を図ります。

 こうした取り組みの一環として、特に、新潟港、金沢港、敦賀港において、多様な物流ニーズに対応した流通施設の集積地帯を構想します。

(4)安定した安全なネットワーク機能の確保

 今後、寄港スケジュールが定められているコンテナ定期貨物やフェリー輸送等の増大が予想される中、日本海特有の風浪・降雪等が激しい冬季も含め、年間を通じて安定して利用できる港湾を目指します。

  1. 港内において安全な荷役や航行を行える静穏度を確保するため、より一層の防波堤の整備や改良を行います。
  2. 冬季風浪や台風時の気象や海象等に関する情報の集積・提供や、積雪に対応した各種対策など、港を利用しやすくするためのサービスについて検討します。

 こうした取り組みの一環として、特に、定期船が就航しているにもかかわらず現状では静穏度が十分でない、秋田港、酒田港、敦賀港において、静穏度をさらに向上させる防波堤の整備を構想します。

(5)国際空港の機能充実やアクセスの整備

  当地域の空港においては、国際旅客数等が堅調に増加しており、今後も国際交流や地域間交流の進展に応じ、航空需要の増加が見込まれます。こうした需要の高まりに応じて、滑走路の拡張や路線の拡大等を図るとともに、長期的には、首都圏の国際交流機能の補完も視野に入れた国際空港への展開についても検討を行います。

 また、北関東をはじめとする、より広域的な範囲の人々が便利に利用できるよう、国際空港へアクセスする道路や新たな交通システムの整備を検討します。この新たな交通システムは、地域住民の生活交通手段として活用できるか否かも併せて検討します。

 こうした取り組みの一環として、新潟空港、小松空港等において空港諸施設やアクセス機能等の拡充を構想します。