1. 本ビジョンの趣旨

1.21世紀に有望な地域とは

 市場経済の拡大・進展により、世界の経済地図が大きく変化しています。生産機能のコスト面での最適立地が進み、物は世界規模で動いています。企業はよりよい立地場所を求めて展開するとともに、人や情報の流れも世界規模で活発になってきています。これからの地域にとっては、世界とのネットワークを有しているか、人や物の交流の大動脈に位置しているかどうか、そしてまた、地域自体にも魅力があり、多くの人を引きつける誇れる文化やアイデンティティを有しているかどうかなどが、地域の発展を大きく左右します。

 こうしたグローバル化の大きな流れは、特に欧米諸国において先行していますが、我が国においても、東アジアが世界を対象とした生産拠点やマーケットとして重要な位置を占めてくるにつれ、国際分業はますます深化し、海外との共存関係がより一層増していきます。さらに、政治状況の変化によってはアジアにおける地域経済圏化が一気に進む可能性もあります。

2.太平洋側の時代から日本海側の時代へ:日本海側のポテンシャル

 我が国においては、20世紀、特に戦後、欧米諸国へのキャッチアップを図るため、太平洋ベルト地帯への重点投資により工業を中心とした経済成長を図り、その過程で太平洋側に産業や人口、都市が集積してきました。1980年代半ば以降、国際経済環境の大きな変化に伴い、我が国がグローバル化の波にさらされる中にあっても、太平洋側はそれまでの集積を活かし、国際交流の中心となってきました。一方、日本海側は、冷戦下における政治的な要因もあり、エネルギー供給など太平洋側の成長を支える役割を担う一方、国際交流の面では太平洋側に大きく依存してきました。

 こうした日本海側の役割については、変化の兆しが現れています。

 国際貿易は、欧州、東南アジア、極東、北米の4地域を核としてなされていますが、1990年代の韓国、さらには中国の飛躍的な成長に伴い、釜山や中国沿岸部に寄港する物流ルートが増大しています。東南アジア-極東間のアジア域内航路では日本海ルートの増加は、めざましいものがあります。東南アジア-北米間を結ぶ基幹コンテナ航路については、日本に寄港する場合は太平洋側を通っていますが、日本に寄港しない場合には、時間の短縮を図るため、釜山から日本海を通って、直接、北米に向かう航路も登場してきました。中国、韓国等では大水深でかつ情報化された港湾が建設されており、東アジアのさらなる成長や国際競争の激化に伴い、将来、大型コンテナ船が日本海を頻繁に通るようになれば、日本海側は国際物流の大動脈に位置することになります。

 また、我が国と東アジアとの国際分業はますます深化しつつあります。これにより、製品・半製品ベースの輸出入がさらに増加し、韓国、さらに近年では中国を中心として、日本海側のコンテナ取扱量は飛躍的に伸びており、こうした流れは今後とも続くものと思われます。さらに、北東アジアの成長や資源開発等が進展すれば、この流れが加速することも考えられます。

 日本海側が国際物流の大動脈に位置し、さらにアジアとの関係がますます緊密なものとなれば、ついには日本海側が国際物流の面で自立を遂げる日が来るのではないでしょうか。

 また、21世紀においては、ゆとりや癒しが尊重されたり、自然の価値により重きが置かれるといった、価値観の転換が進みます。日本海側は、特色ある生活文化や豊かな自然環境が残された地域であり、今後の人々の居住地の選択や企業立地にとっても有利に働いてきます。さらに、日本海側は、東アジアとの国際分業の進展や、成長が期待される北東アジア諸国との交流の進展により、国際的な人の交流拠点としてのポテンシャルも高まります。

3.日本海地域の将来像と政策目標

日本海地域の将来像

 こうした見通しは、今後の我が国及び国際的な経済社会情勢や、北東アジアを巡る政治情勢の変化、シベリア等における資源開発の進展状況等により、大きく左右されますが、秘められた大きな一つの可能性であることには間違いありません。       したがって、日本海地域は、国際的な人や物の交流拠点としてのポテンシャル、21世紀において尊重される地域の魅力を最大限活用することにより、経済的な活力があり、市民が豊かな暮らしを送れる地域として、さらに発展する可能性を有しています。

日本海地域づくりのための3つの政策目標 

 こうした大きな将来像の実現に向けて何をしていけばよいのでしょうか?

 当然ながら、東アジア等の成長に対応しつつ、国際交流の基盤となる輸送・交通等のゲートウェイ機能をさらに充実させることが必要です。また、港を中心とする臨海部には、日本海を通じて培われた風土や文化が残っており、こうした空間を市民生活の場として、また、地域づくりの核ともなるよう、創造・再生することも必要です。さらに、日本海を巡る様々な活動が持続的に行われるよう、沿岸域や海洋の環境保全や防災対策も必要です。


 こうしたことから、日本海地域づくりを進めるため、以下の3つの政策目標を打ち立てました。

  1. 東アジア等の成長や国際貿易構造の変化に対応しつつ、世界と日本各地を結ぶネットワークを形成するため、ゲートウェイ機能を充実する。
  2. 臨海部を、日本海の持つ魅力や特色を最大限に活かしつつ、市民が集い、 時を過ごし、地域づくりの核ともなる場として創造・再生する。
  3. 人々の安全や安心を確保するため、自然災害に強い地域をつくるとともに、 沿岸域や海洋の環境を保全する。

 これら3つの政策目標と主要施策の内容について次章に示します。